イスタンブールからの飛行機が黒海沿岸の街、トラブゾンに着陸する直前、夕暮れが迫る窓の外の街にはカクテル光線が輝く大きなサッカースタジアムが見えた。薄暗くなっている街の中でその光はとりわけ明るく見えた。
ソウルからイスタンブールへ向かう飛行機の中。中央の座席を挟んだ反対側の窓際の席には、大柄な黒人男性が座っていた。ソウルとイスタンブルールを結ぶ飛行機に、黒人の乗客がいるなんて珍しいなぁと思っていたのだが、イスタンブールの空港に着くとその謎は解けた。彼はサッカー選手だったのだ。
イミグレーションを出ると深夜にも関わらず、テレビカメラが何台も待ち構えていて、カメラのストロボが何度も光った。その先では飛行機にいたあの男がインタビューに応じていた。近くにいた空港の職員に誰なのかと尋ねると、新しいサッカー選手だという。この国でも、プロサッカーの選手は、国民的な注目を集める存在なのだ。
ソウルから来た男は、僕が行こうとしていたトラブゾンをホームにもつ、トラブゾンスポール(発音には自信がない)というチームと契約を結んだらしかった。このチームは、イスタンブールのガラタサライなどと並び、国内でも有数の強豪らしかった。
偶然は重なるもので、僕がトラブゾンへ移動した日がその黒人選手のデビュー戦の日だったのだ。
ガイドブックで拾った街中の適当なホテルにチェックインして荷物を置くと、そのままタクシーに乗った。サッカー場がどこにあるのかは知らなかったが、“フットボール”と“スタジアム”と、何度かアクセントを変えて言うと理解してくれた。試合はとっくに始まっていいて、うまくすれば後半を見られるくらいの時間だった。
冬の夜の入口、人通りは少ない。ヨーロッパの古い街並にも似た石畳の道を15分ほど走ると、飛行機の上から見えたカクテル光線が近づいてきた。
スタジアムの回りはひどくガランとしていて、ところどころに焚き火の炎が見えた。中からは時々大きなどよめきが聞こえてきた。隙間から見えるスタジアムは一番上の席まで人で埋まっていた。チケット売場は閉まっていて、ゲートに立っていた警官は首を横に振った。そう、チケットは売り切れていたのだ。中からもれてくる光と歓声が空しく宙に舞っていた。一応ヨーロッパの強豪クラブチームだけに、頭の片隅ではこんなこともあるのかなぁと思っていたが、まさか本当に売り切れだとは思いもしなかった。
落ち着いて回りを見回すと、中に入れなかったサポーターの姿が目についた。屋台に寄って、フランスパンにはさんだキョフテ(トルコ風ハンバーガーのようなもの。スパイスがきいてうまい)を頬張っていると、暇そうに煙草をふかす何人かのサポーターが話しかけてきた。こういう時に最初に聞かれるのは「チャイニーズ?」。互いになかなか通じない言葉を使って日本人であることをわかってもらい、新しい黒人選手と飛行機が一緒だったことを話した。彼らは大喜びで何やら歌い始めた。洋の東西を問わずサッカーのサポーターには似たような血が流れているのかもしれない。
後日、イスタンブールに着いて再びサッカーを見ようとしたが、結局こちらも売切で見られなかった。
多くの人を熱狂させるサッカーは、どこか薄暗いトルコの冬の日を照らす数少ない光なのかもしらないと思った。
■アシアナ航空のソウル〜イスタンブール線が、コードシェア便ながら、毎週火曜日ソウル発/土曜日イスタンブール発で復活した模様。沖縄からの往路はソウルで1泊必要。
(2002年1月、おきなわJOHO掲載)
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