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トランジットパス
vol.9 僧院へのドライブ。
On the way from Trabzon to Meryemana,Turky Jan. 1998

 トルコの黒海沿岸の街、トラブゾンは、コーカサス地方への玄関口でもある。黒海をまたいで、ロシアのソチという街にフェリーの便も出ているし、イランにも近く領事館もあるほどだ。そんな交通の要衝ともいうべき街に、イスタンブールから何となく飛んできた。特別な思いもなく、実に何となくやってきたのだ。カッパドキアだとか地中海沿岸のリゾートには全然興味がわかなかった。バスで国境を越えてグルジアへ出かけてもいいし、アンカラ経由でイスタンブールまでブラブラ戻ってもいいなぁと漠然と考えていた。

 トラブゾンは国境に近い港町だけに、活気があった。海辺にはロシアンバザールがあって、ロシアやコーカサス地方からやってきた人たちが、大きな市を開いていた。マーケットには、特にロシアっぽいものが多いわけではなくて、普通の日用雑貨や電化製品、衣類などが並んでいた。入場料を払って入ってみたのはいいものの、特別に欲しいものは見つからずブラブラと時間を持て余した。グルジアあたりから買い出しに来たらしい人がロシア語でやりとりをする音が面白かった。
このマーケットのすぐ横から、グルジア国境のホパまで乗り合いの小型バスが頻繁に出ていた。運転手に尋ねると、国境まで5ドルだそうだ。一瞬行ってみようかなと思ったがビザがない。ツーリストビザが35ドルもすると聞いていたので、結局そのバスに乗ることはなかった。

 扉の前までは辿り着くものの、なかなかその扉の向こう側に行けない。僕の旅にはそんなことが多いと思う。どれも些細なことなので、特に気にすることもないし、開かない扉のあたりをブラついて楽しんでいることも多い。

 ロシアンバザールを出てトラブゾンのはずれにあるスメラ僧院を目指した。山の上にある僧院のあたりには雪が積もっているという話だった。夏場にはバスツアーも出ているということだったが、冬場はないとホテルの従業員に教えられていた。でも、行けないことはないだろうとタクシーに乗ったのだ。

 天気もよく見慣れない車窓からの風景は楽しかった。ゴツゴツとした岩山が続くかと思うと美しい田舎町の風景が現れた。時々車を停めてもらってシャッターを押した。幹線道路から僧院へ続く道に入ったあたりから道の両脇に残雪が現れた。
15分も走るといよいよ雪道になってしまった。チェーンもスノータイヤもつけていないタクシーは雪の山道をそれ以上登れるはずもなく、途中で止まってしまった。車を降りると冷たい空気が身体を包んだ。道路のそばには水のきれいな川が流れていて、針葉樹の木々の枝には、雪がどっさりと積もっていた。運転手は山の上を指差して、「もう少しだったのにな」(多分)と言って肩をすくめた。

 帰り道、気を遣ってくれたのか、道端にポツンと建った鮭の養殖場に寄ってくれた。小さな建物といけすがあった。いけすは氷りついていたが、その中には鮭がいるらしかった。運転手が声をかけると、養殖場を営んでいる家族がゾロゾロと姿を見せた。観光客目当ての施設でもないようだったが、突然の外国からの客を珍しそうに迎えてくれた。トルコ語の会話は全然わからず、僕はただ笑いながら聞いているしかなかったが、その場に漂う暖かな空気が嬉しかった。

 扉の前までは辿り着くものの、なかなかその扉の向こう側に行けない。やっぱり目的の僧院へはたどり着けなかったが、より印象に残るドライブになった。

■スメラ僧院へたどり着けず、トラブゾンへ戻る途中、鮭の養殖場に寄った。家族経営らしく、こじんまりとしていた。雪深い山の中にポツンと建つ家。こんな場所にも人の暮らしがあることに驚かされる。

(2001年12月、おきなわJOHO掲載)



 

 
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