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トランジットパス
vol.8 断食明け。
Haneden Guest House Istanbul,Turky Jan. 1998

 イスタンブールに着いたのは深夜2時過ぎだった。到着地の天気が悪くてソウルを3時間遅れで出発したのだが、着いてみると、それほど天気が悪いという感じはしなかった。

 翌朝早く、トラブゾンという東部の黒海沿岸の街に飛ぶことにしていたので、このまま空港で朝まで過ごそうと思っていた。考えて見ると、これほど遅い時間に余所の国の空港に着くなんて初めてのことだ。心持ちビビリつつ国内線の出発ロビーのある2階のフロアに上がったものの、ベンチの堅さと冷たさが嫌で、やっぱりホテルに泊まることにした。

 タクシーで旧市街にある安宿を目指す。ラジオからは国籍不明の音楽が流れている。こんな深夜にチェックインできるのか心配だったが、電話を入れると、待ってるということだった。車は海沿いを走っているらしかった。知らない外国の街の深夜のタクシーというアンユージュアルさが、ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」という映画のことを思い出させた。

 宿の詳しい場所まではわからないので、目印になるシェラトンホテルで降りる。こんな真夜中でもタクシーが着くと外に出てきてくれるドアマンに恐縮しつつ、宿の場所を尋ねると、当たり前のように親切に教えてくれた。通りには沢山の宿の看板が出ていたが、明かりのついているところは少ない。誰もいない石畳の通りをガラガラと大きな音を立てながら、スーツケースを転がしていく。ここでホールドアップされたら、野垂れ死にだなぁ、などとはっきりしない頭でボンヤリ考えつつ。

 ハネデンゲストハウスは、石畳の下り坂の途中にあった。1泊15ドル。一応バス・トイレ付。ドアをノックすると、眠そうな男がしょうがねぇなあという感じでノロノロと出てきた。明らかに寝起き。ロビーのソファが彼の寝床らしかった。建物の中に入っても寒さはあまり変わらなかった。チェックインして、3階の部屋へ階段を昇る。ほかに誰か泊まってるんだろうか?

 ガランとした部屋の中央にはダブルベッド。部屋に入ってもやっぱり寒いのは暖房設備がないせいだ。部屋にヒーターぐらい入っていてもよさそうなものだが、本当に何もなかった。ベッドの毛布も薄っぺらだ。厚着をしてもこのままじゃ眠れないと思っているところへ、フロントの男がやってきた。彼は電気ストーブを手にしていた。「今、コレしかないんだ」すまなそうに言う男からストーブをひったくって電源につないでみたが、広過ぎる部屋を暖めるにはあまりにショボすぎた。凍死しないことを願いつつ、できる限りの厚着をしてベッドに入った。

 翌朝、寒さで目が醒めた。窓の外には朝日が輝く海が見えた。美しかった。時計に目をやると、トラブゾン行きの飛行機はとっくに出た後だった。何となく立てていた旅のプランが最初から破綻してしまって、少しガッカリした。

 電車でアンカラに行こうと思って、アジア側にある鉄道の駅まで行ったがチケットは3日先まで売り切れだった。トルコ航空に電話すると、明日の夕方のトラブゾン行きなら席があるとのことだったので予約を入れた。

 街が華やいだ様子なので、食堂の男に理由を聞くとラマダン(断食)明けのお祝いとのことだった。それで電車も飛行機も込んでいたのか。理由がわかって僕も少しだけウキウキしてきて街を歩き始めた。

■当時はアシアナ航空のソウル〜イスタンブール便があって、沖縄から往復8万円ぐらいで行けた。今は、成田・関西からのトルコ航空の直行便かアジア各国での乗り継ぎ便を利用することになる。

(2001年11月、おきなわJOHO掲載)



 

 
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