ウェスナーという若いバイクタクシー運転手によると、シェムリアップからバンコクへは、直行の国際バスが出ていくということだった。値段は25ドル。乗り合いのピックアップトラックや国境のポイペトまでのバスに比べると値段は高かったが、エアコン付きということでチケットを買った。出発は明日の朝6時30分。夕方にはバンコクのカオサン通りに着くということだった。
翌朝指定された場所に行くと、ウェスナーが手を振って待っていた。華僑系の旅行会社が主催するバスツアーで、客のほとんどは、プノンペンからシェムリアップまでのスピードボートに乗っていたような若い西洋人バックパッカー。アジア系の顔も何人か見えた。市内の何カ所かで客を集めて補助席までいっぱいのバスは、早朝のシェムリアップの町を滑り出した。
考えてみると、丸一日がかりのバス移動なんて、アメリカの西海岸をグレイハウンドに揺られて以来のこと。その時は大きなシートで、座席のリクライニングもできたが、満席のこのマイクロバスは、ひどく窮屈だった。きくはずのエアコンも申し訳程度で、窓を開けた方が、涼しいくらいだった。町をはずれると、舗装すらされていない埃っぽい凸凹道が続いた。橋が落ちて、グッと遠回りに迂回が必要な場所もあった。
それでもカンボジアの人々の暮らしを垣間見られるバスの車窓からの風景は楽しかった。1時間ほど走ったところでバスは停まった。乗客は、身体が椅子の形にならないようにバスを降りる。そこには様々な物売りが集まってくる。どうやら朝食の時間らしかった。僕は小さな女の子からフランスパンと水を買った。相変わらず美味しいフランスパンを頬張る。どんな田舎に行っても旨いフランスパンがあるというのが面白い。そのことは、世界中のマクドナルド・ハンバーガーが均一に美味しさを保持するということとは根本的に異なる。それは旧盆の中味汁の美味しさとかに近いかもしれない。マニュアルとしてではなく、もっと別な形で受け継がれているものがあると思う。
昼食はシソポンという街道沿いの町のレストラン。中国人が経営する、おそらくここらでは高級な部類に入る店。お腹の具合が心配だった僕は、何も食べずに通りを眺めていると、同じバスに乗っている男が話しかけてきた。日本人だった。東南アジア系の女性と同乗していたので、てっきり現地の人だと思っていたが、彼女は奥さんということだった。バンコクからの小旅行でシェムリアップを訪れたという男は、行きのピックアップトラックはひどかったということを力説した。荷台ではなく運転席横に座っていたらしいのだが、狭いシートに4人掛けだったのだそうだ。流暢にタイ語を話すその男のことが何だか羨ましくなった。
国境のポイペトに着いたのは午後2時過ぎだった。カンボジアのバスはここまでで、タイ側の国境アランヤプラテートまでは歩いていく。イミグレーションでスタンプをもらい中国人ガイドについて、ブラブラとバス乗り場へ向かう。そういえば…、カンボジアの旅を終えたことに気づいた僕はもう一度振り返って見た。大きく開いた国境は、ビザや入国の手続きがちゃんと行なわれているのか不思議なほど頻繁に多くの人や車が行き来していた。
バンコクまでは、ここからあと5時間ほどだ。
■シェムリアップ〜バンコク間のバスは各ホテルで手配可能。1日1便なので、早めの予約が必要。料金はUS$25。(2001年5月現在)所要時間は12〜13時間。カンボジア国内の道路状況は非常に悪く、雨季はさらに時間がかかる。アランヤプラテート〜バンコク間は、別のバスに乗り換える。
(2001年10月、おきなわJOHO掲載)
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