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トランジットパス
vol.6 モノクロのポートレイト。
Phnom Penh,Cambodia Apr. 2001

 雨季に入る直前の暑季(ロダウ・プラン)のカンボジア。まるで体液が沸騰し、身体中の水分がどんどん天に昇っていくような暑さだ。そんな中を呆然と歩く。当然、心身ともに消耗するのも早く、しつこく付きまとうバイクタクシーの兄ちゃんにつきあうことにした。

 連れてってもらったのは、プノンペン市内のトゥール・スレン博物館。ポル・ポト政権下で行なわれた粛清の舞台となった場所で現在は残虐行為を伝える博物館になっている。中庭を囲んで建つ建物は、もともとは高校の校舎。社会主義改革のもとで刑務所に転用されたという。

 1975年、ポル・ポトは民主カンプチア政府を樹立。都市の無人化と農村への強制移住を進め、通貨や労働、農業、政治教育以外の学校教育を廃止し宗教活動も禁した。そして、人民公社を設置して人々の集団生活を促進した。中・高等教育を必要としなかったため、高校の校舎が刑務所にされたというわけだ。

 中庭にある処刑場をかすめて、最初の建物に入る。ここは尋問に使われたという部屋。作りは日本の学校とそれほど変わらない。一つひとつの部屋が小さいのは、作り変えられたからだろうか。部屋の中央には錆だらけの鉄製のベッドが置かれている。すぐそばには鎖が無造作にある。尋問といっても、刑事ドラマで見るような取り調べが行なわれなかったことは容易に想像がつく。窓の外には中庭が広がる。当時、窓から外は見えるようになっていたのだろうか。今は、青く明るい空が見えるが、その頃の中庭では惨劇が繰り返されていたはずなのだ。

 2つ目の建物には、収容されていた人達のモノクロームのポートレイトが壁中に貼られている。大人、子供、老人、男、女。すべてを諦めたようなその目に力はない。悲しみや怒りさえも感じられないような無表情な写真の数々は、見ていてとても恐ろしい。

 ここに収容され虐殺されたのは、僧、教師、農民、技術者など様々な職業につく人々。彼らは、社会主義改革を妨害するスパイとみなされて、家族と共に収容された。(が、当然誰にも罪はない)高級幹部を含む党の忠実なメンバーも数多く含まれていたという。

 3つ目の建物の中にはレンガを積んだ壁で細かく仕切られた独房が並び、4つ目の建物には、拷問に使われた機具や様子を描いた絵が展示されていた。

 この刑務所に収容されたのは約2万人。そのうち生きてここを出られたのは、たったの6人だけだったという。

 博物館を後にする時には、暑さもすっかり忘れてしまっていた。  翌日出かけたプノンペン郊外のキリングフィールドは、トゥール・スレン刑務所で処刑された人が埋められた場所。入口を入ると巨大な慰霊塔が建つ。ガラス貼りの塔の中には、おびただしい数の頭蓋骨が並んでいる。その数9000近くという。昨日のトゥール・スレン刑務所で見たポートレイトの人も、この中にいるのかもしれない。でも頭蓋骨もこんなに並べられると死に対するリアリティを無くしてしまいそうで恐ろしい。この敷地には、いたる所に巨大な穴ボコがある。まだ、多くの人がこの下に埋まっているそうだ。

 人影のない木陰で突然ホームレスの男の子が姿を現して驚かされた。「ワンダラー」という彼の言葉に、いつもは1セントも渡さないが、ポケットの中のカンボジア紙幣を手渡した。

■トゥールスレン博物館
開館時間8:00〜18:00、無休、入館料US$2(施設維持費として) 
キリング・フィールド
開園時間7:00〜17:00、無休、入園料US$2。プノンペン市内からバイクタクシーで30分

(2001年9月、おきなわJOHO掲載)



 

 
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