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トランジットパス
vol.5 石の回廊にて。
Angkor Thom , Siemreap,Cambodia May 2001

 シェムリアプは、プノンペンからのスピードボートでつかまったバイクタクシーの若い男に案内してもらうことにした。男の名はウェスナー。別名ラッキー。でも、彼に案内してもらうことが、本当にラッキーかどうかはわからない。

 プノンペンでは、人の良さそうなバイタク男にボッたくられた。乗る前に散々確認したが、バイクを降りる時にトラブった。「フィフティーン(15)」と「フィフティ(50)」の聞き違い。王宮の前で互いに文句を言いあったあげく、30ドルだけ渡してその場を離れた。きっとあの男は、愚かな日本人に向かって舌を出していたに違いない。よくあることとはいえ、腹立たしさは消えなかった。

 シェムリアプは小ぢんまりとした静かな街。暑い陽が照りつける昼間、通りには人影もまばらだ。

 「4時からはただで入れるよ」というウエスナーの誘いで、アンコールワットへ向かうことにした。いきなりのメインディッシュだ。翌日のチケット(20ドル)を買えば、そのまま入れるということだった。

 夕暮れ近いアンコールワットは、大勢の人で賑わっていた。観光客や地元の人、僧侶たち。街はあんなに静かだったのに…。静寂を期待して、少し損をした。それでも、あまりに巨大なスケールと、緻密さを合わせもつ寺院には、大きなエネルギーが渦巻いているみたいで、目眩がしそうだった。

 寺院を望む池のそばの茶屋で休んでいると、女の子に声をかけられた。何かを買って欲しいらしい。指を差す木の上には、沢山の猿がいた。猿のエサを買えというわけだ。笹のような葉っぱに包まれたエサを一つもらって、猿に投げると器用に葉をむいて食べ始めた。女の子は何だか得意気な顔で嬉しそうだった。

 外に出てウェスナーを待っていると、たむろしている物乞いの子供達に向けて、観光客然とした男が、菓子が沢山入った袋を投げた。路上に散らばる菓子を求めて子供たちが一斉に群がった。男はその様子を見届けると、満足気にバスに戻って行った。子供たちの間では小競り合いが起きて、体格のいい男の子がより多くの菓子を手にしていた。それに対して女の子や小さな子は、掴みかからんとする勢いで猛抗議を続ける。男がどんな理由でそういうことをするのかわからなかった。菓子を上げるにしても、別のやり方があるはずだ。菓子を手にした子供は喜んでいたかもしれないが、その光景を見た周囲の大人たちは、ただただあきれるばかりだった。

 翌朝、アンコールトム(大きな町)へ向かった。周囲12kmの城壁に囲まれ、中心にバイヨンという寺院がある。アンコールワットの数倍の規模だが、人はほとんどいない。暗い通路を進んでいくと、外からの光が差し込む祠堂で、おばあさんが線香の火を焚いていた。勧められるままに線香をもらい火をつけて、少しだけ喜捨した。

 外は40度近くあるのかもしれない。影が出来たところに佇んでいると、オレンジ色の袈裟を着た若い僧侶が、笑いながら寺院の奥へと入っていった。石の回廊を抜けて風がゆるやかに通り抜ける。穏やかで心地よい時が流れていった。

 こんな場所で、わずか十数年前まで内戦や殺戮が繰り返されていたとは想像できなかった。プノンペンで見たポルポト派の残虐行為を伝える博物館のことが思い出された。

■シェムリアプ市内からアンコールワットまでは、バイクタクシーやタクシーで約15分。アンコールワットのほかにも多数の遺跡が散在している。これらの観光にはバイクタクシーなどをチャーターするのがいい。ゲートで支払う入場料は、これらの遺跡すべての入場料。1日券、3日券、7日券がある。

(2001年8月、おきなわJOHO掲載)

 



 

 
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