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トランジットパス
vol.2 ポカラ、雨の夕暮れ。
Pokhara,Nepal Aug.2000

 梅雨が近づいてくる。ワイパーを揺らすレンタカーのカップルを眺めながら、雨の日の観光客はどうやって一日をやり過ごしているのかと思う。海を目当てに沖縄にやってきて、雨にやられてしまったら、魅力は8割減といったところだろう。私は海やマリンスポーツを目当てに旅に出ることはないので、雨が降っても鬱陶しいと思うことは少ない。平気で町へ出るし、雨が面倒臭ければ宿でただ呆然と過ごすだけだ。

 去年の夏、ネパールへ行った。8月は雨期で、ヒマラヤが見えにくいことはわかってはいたが、ずっと降り続けることはないだろうとタカを括っていた。結局、8日ほどの滞在でヒマラヤの尾根を見ることができたのは合わせて10分ほどだった。短い時間にもかかわらず美しい山並はしっかりと目に焼きつけることができた。毎日こんなにもきれいな山を眺めて大きくなる子どもの記憶の中には、どういう風に刻まれるのだろう。それは、沖縄の子どもがエメラルドグリーンの海を当たり前と思って育つような感じなのだろうか。

 カトマンズからチトワン国立公園を経てポカラへ至る幹線道路は、土砂崩れで何カ所も寸断されていた。土砂崩れといっても、こちらでは日常

そのたびに何もない場所で30分、1時間と足止めを喰った。アンナプルナのトレッキングの拠点の町・ポカラの天気も悪かった。雲は低く、雨が降ると排水が不十分なせいで水が道路にあふれた。

 宿は、レイクサイドのホテルマウンテントップにした。1泊10ドル。バス、トイレ、ファン、ケーブルテレビ付でこの値段は悪くなかった。部屋は2階。小さなベランダがついていて、通りを見下ろすことができた。町の中心に近く人通りも多かった。ここから見えるのは…、チベット料理屋、床屋、配送会社、トレッキング事務所、食堂、溢れる排水溝、露天の野菜売り、雑貨屋、サモサの屋台、洋服屋、山をさえぎる灰色の雲、散歩する牛の親子…。ベランダに椅子を出して、買ってきたサモサをミネラルウォーターで流し込みながら、見るともなくそんな風景を眺めていた。そんな時、面白い光景が目に飛び込んできた。

 雨の中、おばさんが、牛の親子を建築中の建物の中に追い込んでいる。理由は定かではないが、棒で親牛を叩きながら追い立てている。一旦はよそへ行くものの、また戻ってくる牛。どうやらおばさんの雑貨屋の前で悪さをするらしい。おばさん、今度はエサの草で子牛を釣って、遠くへ追いやろうとする。それでも言うことをきかない牛の親子。そうすると、今度はおばさんがそばにいた子牛を抱えて建物の奥に連れていった。それを見た親牛は、ものすごい勢いでおばさんを追いかけていく。子牛を開放された親牛は、雑貨屋の前に停めてあった自転車を倒して逃げて行った。大声を出しながら、血相をかかえて追うおばさん。ここは、牛の勝ちといったところか。

 チベット料理屋で夕食をすませてホテルに戻ると、さっきの子牛が床屋の軒先きにぼんやりと腰を下ろしていた。時々悲しそうな声を出す。“お母さんどこ行ったのかなぁ”という様子。はぐれてしまったのだろうか。そんな悲しい声をかき消すような土砂降りの雨が降ってきた。私は、明日のカトマンズまでの道のことが少し心配になった。

■ネパールへはバンコク経由で飛んだ。沖縄〜バンコク往復(台北経由)が5万円ちょっと。インターネットで見つけたバンコクの旅行会社で買ったバンコク〜カトマンズの往復が約4万円。往復ともバンコクでの宿泊が必要だが、思いのほか安く済んだ。

(2001年5月、おきなわJOHO掲載)



 

 
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