トピックス ライブスケジュール アーティストインタビュー アーカイブ マーケット 日記 リンク

アーカイブ

home > Archive > TransitPass
トランジットパス
vol.1 レイアール広場の夜はふけて。
Reial ,Barcelona,Spain Jul.1986 / Nov.1995

 5年ぶりにパスポートの切り替えに行った。今度で4冊目だから最初に作ったのは1986年のことだ。 その時の目的地はヨーロッパ。雑誌で探したシンガポール航空の南回りのチケットは、成田発のロンドン、パリオープンジョーで約25万円。これにユーレイルパスという列車周遊券を買ったら手持ちのお金は淋しくなった。

 ニースからバルセロナに向かう列車の簡易寝台で同室になったのは、アメリカのコロラド生まれのスコットという大学生だった。どこか優等生タイプな感じの男で、笑うたびに見える歯の矯正用のブリッジが気になった。

「宿は決まってるの?」
「まだ決めてない」

 僕は駅のツーリストインフォメーションで適当な安宿を紹介してもらうつもりだった。英語の通じないフランスでもツーリストインフォメーションは例外だった。「Cheaper One(安いところ)」と連発していれば、係の女性が適当に安い宿を探して予約まで入れてくれた。
「俺はランブラス通りの近くユースに行くんだけど、よかったらどう?」と彼は誘ってくれた。

 当時、ユースと聞くと、夜みんなで集まって歌うという印象しかなかったのでためらったが、ただ何となく「とにかく安いんだ」という言葉につられてついていった。

 フランサ駅から港に沿って歩きコロンブスの塔を右折してランブラス通りに入る。7月のカタルーニャの日射しは強く、20分ほどの距離を歩いただけでグッタリとなった。レイアール広場に面してカブール・ユース・ホステルはあった。フロントは2階。相部屋で1泊400円足らずと確かに安かった。8つほどのベッドが入ったその部屋はヨーロッパ各地からの旅行者でいっぱいだった。

 窓の外に見えるレイアール広場は建物に囲まれた大きな中庭風。昼間はひっそりと静まりかえっていて、日陰になった場所では、ベンチに横になってシエスタをむさぼる人が多い。ところが夜になると様子が変わった。

 男たちは露天に並べられたバーのテーブルで飲みながら大騒ぎ。その横では子どもたちがサッカーのゲームに興じてる。近くのディスコからは大音量のラテンのビートが洩れだしている。時折フラメンコの音も聞こえる。香具師の姿も見られる。手持ちのお金が淋しい僕は、同室の連中とロビーの前のテラスからその騒ぎをしっかりと目に焼きつけようとしていた。

 バルセロナには見るべきものが沢山あった。ピカソ美術館、サグラダファミリア、グエル公園、ミロ美術館…。でも21才の僕には、広場の熱狂に比べると、歴史的な建物も貴重な美術品も、ひどくつまらないものに思えてきたのだ。この街の人が作り出すラテンの熱狂を、さらに身体の奥に染みこませようと、僕はポケットのコインを集めて次のビールを手にとった。そして広場の喧騒に身を投じたのだった。

 9年後、95年の秋に、バルセロナを再び訪れた。今度はランブラス通りの5つ星ホテルに泊まった。ピカソ美術館への道すがら昼間の広場を訪ねてビールを飲んだ。9年前と同じ、相変わらずののんびりムードが漂っていた。

(2001年4月、おきなわJOHO掲載)



 

 
ハーベストファーム お問合せはこちらから